糖尿病で障害年金はさかのぼって受給できる?
「劇症1型糖尿病と診断され、現在はインシュリン治療を続けながらなんとか仕事をしているけれど、障害年金はもらえるのだろうか」「過去の分までさかのぼって請求することは可能なのだろうか」
このようなお悩みを抱えていませんか?
糖尿病による障害年金の申請、特に過去にさかのぼって請求する「障害認定日請求(遡及請求)」は、満たすべき医学的基準や確認すべき検査数値が非常に細かく定められており、ご自身やご家族だけで手続きを進めるには多くの困難が伴います。今回は事例をもとにさかのぼって受給したケースをご説明いたします。
症状と体調悪化から診断までの経緯
会社員として勤務していたAさん(当時45歳・男性・厚生年金加入)は、ある日の朝から体に強い倦怠感を覚えていましたが、通常の体調不良と思いそのまま会社へ出勤しました。しかし、時間の経過とともに対処できないほどの激しいのどの渇きと、立っていることが困難なほどの倦怠感に襲われ、職場の近くにある内科クリニックを受診しました。
クリニックで点滴治療を受けましたが容体は改善せず、念のために行った血液検査の結果、血糖値に極めて著しい異常値が確認されました。医師により緊急性が高いと判断され、救急車で大学病院へと搬送されました。大学病院での精密検査の結果、「劇症1型糖尿病」との診断が下され、そのまま即日入院となりました。
約1か月の入院治療を経てAさんは退院し、現在は1日複数回のインシュリン持続皮下注射による治療を行いながら、体調に配慮してデスクワークを中心とした仕事への復帰を果たしています。
障害年金申請において直面した具体的な課題
Aさんの初診日(初めて医師の診察を受けた日)は2023年4月10日です。障害年金の手続きにおいて、初診日から1年6か月が経過した日を「障害認定日」と呼び、Aさんの場合は2024年10月10日がこれに該当します。Aさんが弊所に相談にみえられたのは2025年9月15日であり、障害認定日からすでに11か月近くが経過していました。
ここでAさんが希望されたのは、現在の障害状態を請求するだけでなく、障害認定日の時点にさかのぼって受給権を得る「障害認定日請求(遡及請求)」でした。さかのぼっての認定を受けるには、下記の条件が必要でした。
必要なインスリン治療をおこなってもなお血糖のコントロールが困難なもので、
次のア~ウのいずれかに該当し、
かつ、「一般状態区分表
のウまたはイに該当するもの
(ただし検査日より前に90日以上継続して、必要なインスリン治療をおこなっていることについて確認ができた者に限り、認定する。)
(ア)内因性のインスリン分泌が枯渇している状態で、空腹時または随時の血清Cペプチド値が0.3ng/mL未満を示すもの
(イ)意識障害により自己回復ができない重度低血糖の所見が平均して月1回以上あるもの
(ウ)インスリン治療中に糖尿病ケトアシドーシスまたは高血糖高浸透圧症候群による入院が年1回以上あるもの
一般状態区分 イ)軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの
例えば、軽い家事、事務など
一般状態区分 ウ)歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起きているもの
ここで最大の課題となったのが、障害認定日のカルテに「血清cペプチド値が0.3ng/mL未満」という検査記録が明確に残っているかという点でした。血清cペプチド値は、日々の診察において毎回必ず計測される数値ではなく、数か月に1回、あるいは年間に数回しか検査されないことが多いため、過去の特定の時点にそのデータが存在しないケースが珍しくありません。
弊所によるサポートと課題の解決策
弊所ではまず、Aさんが受診している大学病院に対して適切な手続きを行い、障害認定日におけるすべての検査データおよびカルテの開示を請求し、詳細な精査を行いました。
カルテの記録を1ページずつ確認した結果、幸いにも障害認定日である2024年10月10日のちょうど1か月後、2024年11月10日の定期検査において、空腹時血清cペプチド値が「0.1ng/mL」と、基準である0.3ng/mL未満を満たしている有効な記録を発見しました。また、同日のカルテには「インシュリン注射の継続(発症から500日以上継続)」および「倦怠感による残業の制限、デスクワークへの変更」といった、一般状態区分および就労制限に関する医師の具体的な記述が残されていました。
弊所は、これらの客観的事実に基づき、カルテに記載されたありのままの事実を正確に反映した「障害年金診断書(代謝疾患による障害用)」の作成を病院へ依頼しました。同時に、Aさん自身の発症当時の具体的な困りごとや仕事上の制限をまとめた「病歴・就労状況等申立書」を誠実に作成し、年金機構へ提出しました。
受給決定までの流れ
その後、年金機構による審査が行われ、提出した過去の検査データが決定的な証拠となり、障害認定日時点において障害等級3級の障害状態にあったことが認められました。
これにより、さかのぼって障害厚生年金3級の受給権が発生し、過去分の年金が一括して支給されるとともに、今後も継続して年金が支給される通知が届きました。
社労士に依頼するメリット
劇症1型糖尿病と2型糖尿病における遡及請求の違い
糖尿病にはいくつかの種類がありますが、過去にさかのぼって受給権が認められるケースは、今回の事例のような「劇症1型糖尿病」であることが多いです。
2型糖尿病の場合、生活習慣等の影響により何年もかけて緩やかに状態が悪化していく傾向にあります。そのため、初診日から1年6か月が経過した「障害認定日」の時点では、まだ3級の基準(インシュリン分泌の枯渇や重篤な合併症など)に該当するほど悪化していないことがほとんどであり、後から過去にさかのぼって請求しても、不支給となるケースが多く見られます。
一方で、劇症1型糖尿病は、ある日突然急激に発症します。そのため、初診から1年6か月が経過した障害認定日の時点において、すでに「血清cペプチド値0.3ng/mL未満」などの3級の基準に達している可能性が極めて高く、精緻な書類を作成することで過去分の受給権を確保できる可能性が高くなります。
まとめ
劇症1型糖尿病は、突然の発症により生活や仕事に多大な影響を及ぼす疾患ですが、適切な手続きを行うことで、仕事を続けながらでも障害厚生年金3級を受給できる道が開かれています。また、過去のカルテの記録がしっかりと残されていれば、Aさんのように障害認定日の時点にさかのぼって請求を行うことも可能です。
「自分の検査数値は基準を満たしているのだろうか」「過去のカルテに本当にデータがあるのかわからない」と不安に思われる方は、一人で悩まずに、まずは専門家である社会保険労務士にご相談ください。当事務所では、皆様の体調と生活に寄り添い、客観的な事実に基づいて誠実に、年金申請の手続きをサポートいたします。
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